書籍『オルガンの芸術』


『オルガンの芸術 歴史・楽器・奏法』

(一般社団法人 日本オルガニスト教会監修/松居直美・廣野嗣雄・馬淵久夫編著/道和書院)

という本がありましたので、少しはラインベルガーの参考になるかと思い購入いたしましたが、気になる点がありましたので新しい項を簡単にまとめました。

 

ラインベルガーに関してはp.243の「第IV章オルガンとその歴史-7 ドイツ-c ロマン派の時代(19世紀~20世紀初頭)-ロマン派の作曲家と作品」に正味2行ぐらいしか記述がありません。しょうが無いですね。音楽史/オルガン史においてはさして重要な人物ではありませんから。ただリヒテンシュタイン出身などの特徴や作品が「20曲のオルガン・ソナタ, オルガンと他楽器のための作品を残している。」とぐらいしか記述されておらず、100曲ぐらいあるオルガンの小曲集の存在が無視されているのはどうかと思うわけです。多分執筆者は存在も知らないのだと思います。

 

また、オルガンビルダーとの繋がりも全く触れていません。特に繋がりが深いシュタインマヤー(p.241にその名前が見受けられる)との関係は記述されていません。第二次世界大戦で相当数のオルガンが焼失した、ミュンヘンでの重要なオルガンビルダー、メルツとの関係は全くありません。メルツの名前そのものが採用されていないです。この点はしょうが無いですね。ラインベルガー自身が小物ですし、ミュンヘンなんて音楽的にもオルガン的にも後進地ですから。一般論においてドイツのオルガンは北ドイツのルター派教会以外はカスですから。

 

ほかラインベルガーの名前が散見するのは日本でのオルガン受容初期において、中田章や眞篠俊雄がオルガンソナタを取り上げた点を触れていますが、これは問題ないですね。ちなみに南葵音楽文庫でのラインベルガー演奏は弊サイトでも把握していますが、奏楽堂での演奏以降のことでありきりが無いのですので取り上げていません。他に見過ごせない事実誤認がありました。

 

人物索引(p.381)にて、ラインベルガーの名前はもう1点見受けられます。該当する「第V章日本のオルガン史-4 オルガン文化の受容と同化(1970年~)-c オルガニストの活動」(p.352)に

「1973~1980年の期間には, NHKの招聘による多くのオルガニストの来日公演があった。たとえばJ. ラインベルガー, ヘルムート・リリングHelmuth Rilling(1903-)(以下略)」

と記述されているんです。え~~~~、それじゃ索引と突きつけ合わせると1901年に死んだラインベルガーが70年代に来日して演奏したことになるじゃん、これ! 幽霊かよ!!

 

はい、これは単純ミスでしょうね。おそらく索引を作る上で本文を全文検索を行い、引っかかったから載せちゃったんでしょう。

 

このNHKが招聘したオルガニストは、1973年6月20日のNHKホールのこけら落としで演奏した「Jiři Rheinberger」のことですね。Jiřiはチェコ出身のオルガニストでヨーゼフとは血縁関係はありません。ちなみにファーストネームの「Jiři」は「イージ」、「イジー」、「イージー」、「イルジ」などと片仮名表記が揺れていて、発音がむずしい人のようです。Jiřiのこけら落とし演奏はWikipediaでもヨーゼフにリンクが張られていたぐらいで以前から誤解がありました(現在リンクは解消されています)。上記のリリングのように、フルネームのスペルを記述するべきですね。

 

あとですね~、フランスのオルガニスト/作曲家ルイ・ヴィエルヌ(1870-1937)の項目(p.201)に関してなんですが、

「ヴィエルヌは盲目で生を受け, 」という記述にはちょっとひっくり返りました。彼は白内障による弱視で、若い頃は少しは見えていたんですよね。デュプレの証言にあるように、巨大な楽譜を作って作曲していたわけで、「法律上の盲人」とはなっていたはずですが完全に見えなかったわけではないんですよ。ちょっとこの本には眉唾的なことが散見しますね。