decresc:のお話

Duo op.149/2. 「Thema mit Veränderungen 主題と変奏」136小節目/ via BSB mus.ms. 4619#Beibd。白丸囲みに「decresc:」があるが上の「dim:」や下の「Ped:」と明らかに筆跡が異なっている」
Duo op.149/2. 「Thema mit Veränderungen 主題と変奏」136小節目/ via BSB mus.ms. 4619#Beibd。白丸囲みに「decresc:」があるが上の「dim:」や下の「Ped:」と明らかに筆跡が異なっている」

 非常に些末なことですし、世の中ラインベルガーの権威みたいな国内の音楽家(とくに合唱指揮者やWebMasterが持っている資料にないことを述べちゃう音楽学者)には常識でしょうから、話題にしませんでしたが、ちょっと気づいたことがありましたので小ネタの報告です。

 

 

 Carus社のラインベルガー全集第47巻(第9部 編曲/2台ピアノのための自作品編曲 7)の序文に寄りますと、ラインベルガーは強弱記号のdecrescendo(decr.やdecresc.)を全く使用せず、「diminuend/dim.」を使うのだそうです(左開き松葉記号のデクレッシェンドは別です)。少なくとも作品番号を与えられたピアノ曲では存在はせず、唯一の例外は2台のピアノのための『Duo 二重奏』(オルガンとヴァイオリン・チェロためのトリオからの編曲)作品149a第二楽章「Thema mit Veränderungen 主題と変奏」136小節目に件の「decresc:」が使用されています。ただしこれも直筆譜を検討すると、非常に筆跡が合間愛で、ラインベルガー自身の手による者ではないかもしれないとも解説されています。ラインベルガー自身の確かな筆跡による「decrescendo/decr./decresc.)」はピアノトリオ1番(ニ短調 作品34)の第一稿(1862)にあるだけだそうです。第一稿ですの出版された版にはありません。ここまでが前振り。

参考/Piano Trio op.34第一稿コーダ部。via BSB mus.ms 4515 b。白丸囲みに「decres:」と書き込まれている。
参考/Piano Trio op.34第一稿コーダ部。via BSB mus.ms 4515 b。白丸囲みに「decres:」と書き込まれている。
「Himmelsbote, Strahl der Sterne 天の使者、星の光」結部。via BSB mus.ms. 4698-7。「decres:」と書き込まれている
「Himmelsbote, Strahl der Sterne 天の使者、星の光」結部。via BSB mus.ms. 4698-7。「decres:」と書き込まれている

 WebMasterはラインベルガーの世俗歌曲を勉強しております。しょっちゅう述べていますので繰り返しになりますが、彼の世俗声楽曲ではいわゆる文豪と呼ばれる人たちはあまり採用しませんでした。彼と同時代人で、今では忘れ去られた詩人や、それこそ近所に住んでいた知人を採用する傾向にありました。そんな中、唯一の例外としてスコットランドの詩人、ロバート・バーンズがいます。ラインベルガーはバーンズの独訳された詩7編を1860年に集中的に付曲を行い、「バーンズの7つの歌」してまとめていました。曲集はバラバラにされ、うち5曲がのちに3種類の歌曲集に改訂され収められました。

 

 採用されなかった2曲がどんな曲なのであろうかとWebMasterは打ち込みをしてみました。すると「Himmelsbote, Strahl der Sterne 天の使者、星の光」という歌曲の終わりの箇所に、件の「decres:」が存在していることに気づいたのです。

 

 これはラインベルガーの「dim:/decresc:」問題で、2例めの作曲家自身による筆跡と思われます。出版されていない作品だからなにか問題あるのかと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、非常に珍しい事例だと思われます。